東京高等裁判所 昭和53年(ネ)3047号 判決 1980年2月28日
控訴人(原告)
岡野浩明
ほか二名
被控訴人(被告)
鎌ケ谷市
ほか一名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決中被控訴人らに関する部分を取り消す。被控訴人らは、各自控訴人岡野浩明に対し金一、〇六三万〇、六〇六円、控訴人岡野文雄、同岡野道子に対し各金三九万一、三〇〇円及び右各金員に対する昭和五〇年八月二三日から支払いずみに至るまで年五分の割合いによる金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、左記のとおり附加、訂正するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
(控訴人らの陳述)
(一) 原判決三丁目裏八行目から一〇行目までを次のように改める。
「被控訴会社は、本件加害車を所有権留保のままで第一審被告梅田敬治に売り渡し、しかも、同人に対し、被控訴会社の承諾なくして右自動車を処分したりその保管場所を変更することを禁ずるとともに、その使用、保管につき善良なる管理者としての注意義務を課していたし、また、同人が右自動車の運行により取得する利益でもつて同自動車の売渡代金の支払いを受ける関係にあつたのであるから、自動車損害賠償保障法三条にいう「自己のために自動車(本件加害車)を運行の用に供する者」に該当し、本件事故による損害を賠償すべき義務がある。」
(二) 原判決三枚目表八行目の「道路」の次に「(この幅員は三・二メートル)」を、四枚目表二行目の「本件交差点」の次に「に信号機はなく、交差する道路の優先順位も明らかでなかつたところ、同交差点」を、その六行目の「右交差点際に」の次に「信号機ないし」を、その七行目と九行目の各「本件交差点の存在」の次に「及び交差する道路の通行状況」を、その一〇行目の「したものである。」の次に「また、本件交差点際にカーブミラーが設置してあれば、控訴人岡野浩明も、交差する道路の通行状況を事前に知ることができたので、本件事故に遭遇しなかつたはずである。」を加わえる。
(三) 原判決四枚目裏一行目から六枚目裏一〇行目までの損害の状況とその金額並びに本訴請求金額を、原判決の損害についての認定(原判決一一枚目表七行目の「原告」から一四枚目裏五行目まで)のとおりに改める。
(証拠関係)〔略〕
理由
(被控訴会社に対する請求について)
被控訴会社が本件加害車を第一審被告梅田敬治に対し所有権留保の特約付きで割賦販売したこと及び本件事故当時その代金が完済されていなかつたことは、当事者間に争いがない。ところで、所有権留保の特約付きで自動車を割賦販売した者は、特段の事情のないかぎり、販売代金債権確保のためにのみ所有権を留保するにすぎず、自動車を買主に引き渡しその使用に委ねた以上、自動車損害賠償保障法三条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」にあたらないと解すべきである。(最高裁判所昭和四六年一月二六日第三小法廷判決、民集二五巻一号一二六頁参照)ところ、控訴人ら主張のごとき事実をもつてしては、末だ右特段の事情に該当するとはいえず、他に、右特段の事情を認めるに足る資料はない。
さすれば、控訴人らの被控訴会社に対する本訴請求は、その余の点につき判断を加わえるまでもなく、理由がないことが明らかである。
(被控訴人市に対する請求について)
当裁判所も、控訴人らの被控訴人市に対する請求も棄却すべきものと判断する。その理由は、左記の点を附加するほか、原判決の説示理由と同一であるので、ここにこれを引用する。
成立に争いのない甲第五号証の一ないし八、乙第一、第二、第四号証、原審における証人堀野隆正、同江波戸俊夫の各証言及び控訴人岡野文男本人(第一回)、第一審被告梅田敬治本人の各尋問の結果によれば、本件事故現場の道路は、幅員が三・二メートルしかなく、しかも、本件交差点には当時信号機が設置されておらず、道路の両脇に雑木が生い茂つていて見透しがあまりよくないので、速度規制はされていなかつたとはいえ、通行車の安全速度は、せいぜい時速二〇キロメートル位であること、また、本件事故現場の道路は、交差する道路に対して優先道路でないので、本件事故現場の道路より本件交差点に進入せんとする者には、道路交通法四二条の規定により、除行義務が課せられていること、そして、第一審被告梅田敬治は、本件事故現場附近を月三回位通行していてこれらの道路事情を知悉していたし、しかも、無免許であるにもかかわらず、本件加害車を運転し、時速四〇キロメートルの速度で本件事故現場附近に差掛り、本件交差点の約一八メートル手前で、小学校三年生位の二人の男の子が自転車に乗つて本件交差点を東から西へ横断するのを発見したのに、少しブレーキを踏んだだけで、そのまま進行を続け、一二、三メートル手前で、控訴人岡野浩明が自転車に乗つて前記二台の自転車の後を追うようにして出てくるのを発見し、急ブレーキをかけたが、間に合わず、同人に本件自動車を衝突させたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。
しかして、もし、梅田が時速二〇キロメートルの速度を守つていたとすれば、その場合の制動距離は、一〇メートルを越えるものでないから、本件事故の発生は回避できたものといえるので、本件事故は、梅田の無謀運転により惹起されたものであつて、本件事故現場の道路に瑕疵があつたことによるものではなく、本件事故が道路の瑕疵によつて発生したことを前提とする控訴人らの被控訴人市に対する本訴請求は、その余の点につき判断を加わえるまでもなく、理由のないことが明らかであるといわなければならない。
よつて、被控訴人らに対する控訴人らの本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 渡部吉隆 浅香恒久 中田昭孝)